医学部医学科の使命 (平成29年4月13日 医学科会議承認)

「広島から世界に広がる創造的な医学」

 広島大学は、「自由で平和な一つの大学」という建学の精神の下、理念5原則として平和を希求する精神、新たなる知の創造、豊かな人間性を培う教育、地域社会・国際社会との共存、絶えざる自己変革をもって大学の使命としている。この中にあって医学部医学科は、「平和に貢献する医療人の育成によって医学・医療の進歩に寄与する」ことを使命とし、以下の目標を掲げる。
 平和に貢献する医療人にふさわしい倫理観と人間性(思いやり、共感、献身、使命感)を備えた人材、高度な医学知識・技術を習得し独創的研究を行い国内外の医学水準の向上に貢献できる人材、地域社会のニーズに応えて必要な能力を提供し地域の保健・医療の向上に貢献できる人材を育成することにより、人類の健康・福祉と社会の発展に尽くしたい。また、その努力を将来にわたって継続することで、本学の位置する地域の医師養成機関として、医学の発展と、医療水準の向上に貢献する。

 医学部医学科は、その教育の目的と指針を以下のように定める。

1) 問題解決の姿勢を修得する

 自ら問題点をみつけそれを解決する姿勢や科学的な思考力・判断力は、医師として働くために必要不可欠な要件である。これらの姿勢と能力を育成するため、本学の学習カリキュラムでは講義と同等の時間の演習を行い、また、一方的な知識伝達型講義のみではなく、小グループによるディスカッションとPBL(Problem-based learning)テュートリアル教育を多く取り入れる。特に4年次には集中的に多数回のPBLテュートリアルを行い、問題解決能力とともに課題に直面した際に自然に問題解決型の考え方により対処する姿勢の確立を目指す。

2) 医療の専門領域に進むための基本的な知識と技能を修得する

 将来、どの分野を専門とした時にも土台となるような幅広い知識と技能を身につけるため、本学では従来の縦割り型の分野別講義を改め、複数の講座が協働して内容を統合した総合的な講義体系を組む。これにより、各科の専門領域の枠にとらわれない総合的な知識の修得を目指す。また、医学教育モデル・コア・カリキュラムに準拠して講義を系統化し、基本的な知識や技能を遺漏なく修得させる。

3) 医師に必要な人間的基盤を修得する

 医療の基本となるのは信頼関係に根ざした良好な人間関係であり、そのためのコミュニケーション能力は医師として必須である。本学では、低学年のうちから積極的にグループ学習を取り入れることで、協働することの重要さを学び、チームの一員としての責任を果たし、チームに貢献する姿勢の確立を図る。また、臨床実習では診療参加によって実際の患者との人間関係構築を繰り返し練習することで、患者と良好な人間関係を築くスキルの向上を促す。
 また、医師としての豊かな人間性を涵養し、プロフェッショナルとして人々の健康を守る使命感・責任感を形成するため、入学後早期から実際の医療現場に接する実習を行う。医療の現場を見学することで医師の仕事を理解し、また、看護、検査部門などの医療スタッフの業務を理解することで、医師となるべき心構えと医師のあるべき態度を考え、自覚することを促す。

4) 卒後教育へ円滑な移行を図る

 良質な医師となるためには、個々の知識や技能に秀でていているのみでは不十分であり、知識、技能、態度のすべてにおいて完成されたスキルを統合して診療できることが必要である。本学では臨床実習に診療参加型実習を採用し、医療現場における医師の業務の一端を担うことで知識・技能・態度を実践的に学び、これらを統合して診療にあたる能力を身につけさせる。また、スキルスラボを活用し、医療現場での実習にシミュレーションを併用した実習環境を構築し、基本的診療技能の早期確立を図る。卒業時にはOSCEによって総合的な診療能力を評価し、個々の学生の不十分な技能を指導、補完することで診療能力を強化し、卒後臨床研修への円滑な移行を図る。

5) 医学における生涯学習の姿勢を涵養する

 医学の進歩はめざましく、医師たる者は、自らの知識、技能のレベルと限界を把握した上で、生涯にわたり自ら努力して向上し続ける態度を身につけることが必要である。本学では、複数科の講義の中に繰り返し問題基盤型のPBLテュートリアルを取り入れ、自ら何を学ぶかを決め、学ぶべきことを学びたいだけ学ぶ自己開発型の学習姿勢を修得させる。

6) 保健と医療を通して社会的責任を自覚する

 医師は保健制度や医療経済についても十分な知識を持ち、社会における疾病の予防や健康に関する問題を捉えることが必要である。本学では、社会医学の教育において多くの演習、実習を組み合わせることで、保健医療制度における医師の役割と責務を理解させる。また、地域社会において医師の果たす役割を理解するために地域医療実習を行い、県内各地域の医療機関で実習を体験することによって、医療と地域住民の生活の関係を理解し、地域の抱える保健・医療上の問題を実感することで、医師の社会的責任を自覚することを促す

7) 医学研究を推進するための能力を涵養する

 生命科学としての医学の発展に寄与する研究者を養成するためには、探究心と創造性に立脚した科学的な視点を養うことが不可欠であり、学生時代に科学的な思考と方法論を十分身につけることが重要である。本学では、診療を行うための知識や技術の教授と並行して、すべての学生に医学研究へ参画させる。4年次には、4か月間すべての他のカリキュラムを休止し、学内外の研究室に配属して研究活動に従事させる。これにより、医学研究の意義と重要性を理解し、自らも医学の発展に寄与する気概とマインドを養う。

8) 国際的な保健・医療への視点を涵養する

 学部在学中の海外への留学を奨励し、海外の医育機関で教育を受けることで、国ごとに異なる医療事情、保健事情を理解し、国際的な保健・医療の視点を身につけさせる。このため、海外で行った臨床実習は、本学で行った臨床実習と同様の実習として認める。また、4年次の医学研究実習では、海外の研究施設での研究を選択可能とし、国際的な視点と国際交流能力を向上させる機会を設ける。

9) リベラル・アーツ教育を推進する

 平和を希求する成熟した社会人として幅広い教養を備え、また、医学的問題を幅広い視野からとらえる能力を備えるためには、自然・社会・人文科学的な考え方を総合的にできる素養が望まれる。さらに、化学、物理学、数学、統計学など、医学を学ぶ基礎となる教養的基盤を強化することも大切である。本学では、1年次において幅広い視点からの教養教育を行つつ、高校で化学、物理学、生物学のいずれかの科目を履修していない学生に対して該当科目のサポート教育を行う。また、医師となる者としての自覚がある程度育ってからの教養を強化すべく、2年次以降も専門教育と並行して教養教育を継続する。

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